前回、警察から発見届出済証を出していただきまして、次のハードルは東京都教育委員会。
審査会というところで、美術的な価値を認められれば所持が認められます。
じゃあその審査会ってなんなの?と調べるとこれも東京都のページ。
参考:東京都銃砲刀剣類登録審査会の御案内 [kyoiku.metro.tokyo.lg.jp]
月に1回、第三土曜日に都庁で審査会が行われていて、そこに実物と発見届出済証とか手数料とかを持って行って鑑定してもらうらしい。
審査を受けたい、という申請は電子申請で行けたりして、まあまあ便利です。
で、いよいよ4月、審査会当日。
土曜日なので都庁全体は静かなんですが、第二本庁舎1階北側の受付には行列が。
土曜の午前中、そんなに都庁に用事のある人なんているのかしら、、と思いつつ、受付をすると、番号札を渡されてロビーで待つように言われます。
ロビーってここでいいのかな。
っていうか、もしかして、この方たちみんな審査会目的?
手元の整理番号は13番。審査会は1日5枠あって、私は朝一番の枠に入ってます。この待ち人数が刀剣の審査会だけなんだとしたら、1枠で最低でも13人いるってことだよね。で、全枠このペースだったら、1日60-70人くらいが審査を受けてる。
毎月毎月、東京だけでそんなに刀剣って発見されてるの!? 廃刀令も戦後の武装解除もザルじゃん。
いや、待て。元々の製作数が多ければそれだけ残存数も多いはずだし、数が減っていまのこのペースなのかもしれないし、言ってる自分が何十年も放置された刀をいま持ってきてるし、人のことは言えない。
番号を呼ばれて会場に入ると、すごい熱気。
想像してたのは、狭い会議室で、鑑定士さんと1対1で、じっくり経緯を聞かれて・・・みたいな感じなんですが、それとはまったく違って、広い。学校の教室よりもちょっと広いくらい。
中央に待合席(椅子は30席以上あったと思う。ディスタンス取りつつ10人くらい座ってた)、左手に鑑定を行うブースが3つ、右手に案内や事務作業を行う人が10人弱。1つの鑑定ブースに1人の依頼者が座って、鑑定士らしき人とその弟子の方みたいなペアが応対してます。3件同時進行。
繰り返しますけど、こんなに刀剣って見つかってるのね。
いま調べてみたら、文化庁のpdf[bunka.go.jp]で、平成11年度で刀剣類の累計登録数が2,312,041。その前数年は年間15,000点くらいずつ増加しているので、そのペースならいまは累計270万点くらい。年間15,000点ってことは、月1,000点ちょい、人口比で考えて東京だけで月100点くらい登録されてる。うむ、なんとなく桁数は合ってる気がするぞ。
敗戦後、GHQの命令で接収されて赤羽に集められた日本刀[ja.wikipedia.org]が20万点くらいだったとか。その10倍以上、忘れてたか、無視されたか、意図的に隠されたかしてたわけですね。(細かくいうと、接収された後に返還されて登録されてるものも相当数あるはずだけど)
と、書いてたら、つい先日までその返還された刀の展覧会とかやってたらしい。
開館50周年記念特別展「接収刀剣ー板橋に集いし赤羽刀ー」 [city.itabashi.tokyo.jp]
まず手数料を支払い、席について、各ブースの状況を眺めていると、それぞれの依頼者の方たちの年齢層も様々、鑑定を受けている様子も様々。
鑑定対象も、時代劇に出てくるような大小の打刀(うちがたな)であったり、薙刀(なぎなた)であったり、種類も色々。
とあるブースでは「これ絶対、鎌倉時代のものなんですよ!あのですね・・・」と、若干のヲタ口調で力説する依頼者さんに対して「それは私たちが判断するので、ちょっと黙ってて」と鑑定士さんがたしなめる場面があったりして。
また別のブースでは、亡くなったおじいちゃんの遺品の中に・・・みたいな、うちと似たような話をしている親子連れがいたり。
で、やっと自分の番が回ってきます。
短刀の鑑定士さんに、実物を渡して見てもらいます。
まず、握り手の柄(つか)から刀身を抜くために、目釘(めくぎ)というのを外さないといけないんですが、これが抜けない。
刀身の根元、柄に隠れている部分、茎(なかご)に銘でも掘られていれば、「ああ、これはどこそこの工房で作られたいつ時代のものだ」がわかるらしいんですが、それ以前に抜けない。かといって乱暴に扱って外装を傷つけられても困る。
この目釘を外すのに、ペンチやら何やらを駆使しても10分以上かかりました。
で、出てきた本体がこれ。
特に銘は刻まれておらず。出自はわからない。
次に問題になるのは、これが本当に日本刀なのか、ということ。
あらためて、教育委員会的に、美術的価値があるとして登録してもらうには、以下の条件に当てはまることが必要です。
(1) 刀剣類の登録
ア 日本刀とは、武用又は観賞用のために日本刀製作方法に則り製作されたもので、素材の一部に玉鋼を使用し鍛錬し焼入れを施したものを言い、たち、刀、わきざし、短刀、やり、剣、なぎなた、ほこを含みます。
イ 登録の条件として必要なことは、刀剣類の材料に玉鋼が使用されていること、繰り返し鍛えられ焼きを入れてあり、美術品として姿、鍛え、刃文、彫り物等に美しさが認められ、又は各派の伝統的特色が明らかに示されているものであることが必要です。
https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/lifelong/cultural_property/firearms_and_swords/registration_02_01.html
つまり、焼いて鍛えた刃がちゃんと入ってるのかどうか。もしこれが、鋳造した鉄を研いだだけのナイフなんだとすれば、それは単に危険な刃物なので登録できず、没収されてしまいます。
骨董としての価値は期待していなかったのですが、この、没収だけは避けたい。形見なんで。
で、また、この刃の錆。刃の状態が評価基準なのに、刃のあるはずの部分がびっちりと錆びてるもので、鑑定士の方々は大弱り。しまいには隣のブースの鑑定士さんまで集まってきて、腕組みしてひそひそ話。
最終的には、粗めの紙ヤスリで刃先のサビをゴリゴリ削って「うん、大丈夫でしょう」ということでOKいただきました。
おそらくは幕末ごろのものだろうね、とのこと。
鑑定士さんのOKが出ると、その後数分であっという間に登録証が発行されます。
これと一緒に持ち歩いていれば、「美術品の運搬」として認められます。よかった。