会社勤めという部族の生活の中には、いろいろと奇妙な風習というのがあって、いまだになじめなかったりするのです。
椎名誠さんが「昼めしに何を食うかぐらい勝手に決めればよいではないか」みたいなことをなにかのエッセイで書いてましたが、「誰が声をかけるか」「上役と同行するかどうか」「注文する順番と内容」などなど、ランチ時の男性社員の行動は「疑似ホモ関係」と言いたいくらい、妙な自意識と嫉妬みたいなものを感じます。
勤務時間中には「何が言いたいんだこの文章!?」というような社内文書が飛び交いますし、その中には「○○(会社名)用語」がふんだんに盛り込まれている。で、この「○○用語」のなかで広く一般化したものが「ほぼ日」の「オトナ語」(単行本も話題になりました)ですな。
「おかしいんじゃないのみんな?」と思う一方で(それはみんな思ってると思う)、ワタシ的にはそんなおかしい人間の集団なのに成り立っていける「会社」というものの凄さをずーっと考えているわけです。
で、どう考えてもアタマ良くないよな、という人がすごい給料もらってたり、すごく一生懸命働いてる人が報われなかったり。個人事業者だったらこの倍は働かなきゃ食っていけないよな、というくらいの勤務状況でも、会社員なら充分食っていける。サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ・・・と。
そのあたりのおかしさに対するひとつの結論というか諦観として読みたいのが『ディルバートの法則』。
もともとは世界中で読まれているコミックで、日本だと『MAC POWER』とか、あと英字系の新聞にも出てるかも。過去1ヶ月の作品はUnited Mediaの公式サイトでタダで読めますので、辞書引きながら読んでみて下さい。特にIT系のお仕事の方には「これ、あるある!」の連続でしょう(主人公のディルバートはエンジニアという設定)。
で、この本は上記の連載コミックを元に、作者のスコット・アダムズ氏が「マヌケなビジネス界でマヌケなわれわれがいかにサバイバルするか」を解き明かした本です。
もう5〜6年前に読んでいて、いろんな人に薦めてるんです。コミックだと「それ、あるある」だけで済んでしまうことを「なぜそうなるのか」「その状況でいかに自分に有利な状況を作り出すか」まで書いてくれてます。文体はふざけてますが、内容はヘタな経営書なんかより充実してます。いくつか紹介しましょうか。
- 実労働+見かけの労働=総労働
これ、「アダムズの報酬平衡の法則」。長時間働いている人も、実際はネットサーフィンや私用メール、会議、上司との会話、イベントへの参加どで時間をつぶして、実際の労働時間は変わらない、という話。人間が一日に集中して仕事をできる時間ってせいぜい数時間だと思うんですよ。しかもその間に電話でもあれば一気に能率は落ちる。日本で1日7〜8時間労働というのが標準になっているってことは、残りの時間はのりしろみたいなもんだと厚生労働省も認めているということではないかと。
続いて「魅力的なプロジェクトを担当せよ」という項目。以下の単語を含むプロジェクトは避けろ、と。
- 会計
- 経営
- 削減
- 品質 など。
以下の履歴書向きな単語を含むプロジェクトに参加しろ。
- マルチメディア(moriy注:1996年出版の本です)
- ワールドワイド
- 先端
- 戦略的 など。
こんな調子で進んできて、スコット・アダムズが最後に提唱する会社の成功条件は・・・。
- 有能な社員と優秀な製品を有する企業は通常成功する。
当たり前のことですけれど、こんな企業はそうそうないですよね。そこで社員と製品の質を上げるために必要なのは「ファンダメンタルな仕事をして、そうでない仕事をしない」ことだと。
「ファンダメンタル(基本的)な仕事」とそうでない仕事の見分け方はこんな感じ。
- 顧客との会話はファンダメンタル、顧客についての会話はファンダメンタルでない。
これまた突き刺さる言葉です。顧客についての会話(主に愚痴と批判)だけが延々と続く会議に消費される時間は相当なものに違いない。
そして、人間は基本的に無能であり、有能でいられる条件・時間は限られているから、企業はできるだけそれを邪魔しないようにしよう、というモデルが「OA5(Out At 5)」。5時退社を義務づけて、その時間内にすべての仕事を終わらせるように努力しろと。そうすればファンダメンタルでない仕事をしているヒマはなくなるはずだし、企業側も無駄なコストが減るだろうと。
単に制度だけ作れば全体が回るというものではないので、このOA5の実現には相当な努力が必要だとは思いますが、ひとつの理想像ではありますよね。
まずは自らと周囲のマヌケさを自覚するためにご一読を。
ディルバートの法則(THE DILBERT PRINCIPLE)
スコット・アダムズ著
山崎理仁訳
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ディルバートの法則
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